遺言によって人や法人に遺産を贈与する“遺贈”で社会貢献する人が増えている。欧米では当たり前だが、日本では近年、ようやく注目されるようになった。
「自分の意思で遺産を社会貢献に使おうという人が増え始めたのは、2011年の東日本大震災以降のこと。加えて2015年の税制改正で相続税を払わないといけない人が急増したのも遺贈に関心が高まった一因です」と語るのは、終活に詳しい立教大学社会デザイン研究所研究員の星野哲さんだ。
確かに、日本ファンドレイジング協会の『寄付白書2015』によると、従来3割程度だった金銭寄付者率が、2011年に68.6%まで増加し、それ以降も4割を維持している。
今後、毎年140万~170万人が亡くなる“多死社会”になるため、遺贈への注目度はますます高まるはずだと、星野さんは続ける。
また、遺贈が今後も増えるであろう理由として、晩婚化や非婚化、少子化なども影響している。配偶者や子供など、財産を継ぐ人がいない場合、遺言書がないと財産は国庫に入る。会ったこともない遠縁や国に財産が渡るくらいなら、自分が望む人や団体に寄付した方が、有意義だという考え方が浸透してきているのだ。
では実際、どこにどうやって遺贈したらいいのか、具体的な方法を紹介していきたい。
今の日本ではまだ、遺贈を受け入れる団体と、その情報が少ない。そのため、「遺贈はしたいけれど、不安がまさる」と、遺贈先選びの段階で断念するケースも少なくない。
『終活と遺贈に関する意識調査2017』(国境なき医師団日本調査)によれば、遺贈に不安を感じる理由として、「詐欺に遭わないか」などといった、寄付する団体への不信感が47.6%にのぼった。
他にも寄付金の使い道や団体の活動内容も不安とする声が多い。
寄付したい団体が明確に決まっているなら、直接各団体に申し込めばいいが、決まっていないなら、まずは相談窓口に頼るという手もある。相談窓口とは、遺贈先団体を調査する“プロ”。個人では調べきれない情報を豊富にもっており、しかも無料(*注)で相談に乗ってもらえるのだ。
【*注:相談窓口での遺贈の案内はすべて無料。ただし、弁護士を頼んだ場合の費用や換価のための実費は別途かかる】
例えば、相談窓口の1つ、パブリックリソース財団は、遺贈先団体の財務状況なども調べているという。
「毎年、組織の信頼性や社会の課題解決力を審査しています。現在、紹介できる団体は200以上。具体的な遺贈先が決まっていなくても、“子供を守る活動に力を貸したい”といった、漠然とした希望から、信頼できる候補を提案することもできます」(パブリックリソース財団・岸本幸子さん)
遺贈先が具体的に決められない場合は、【1】活動分野【2】活動地域【3】団体規模【4】税制適格【5】遺贈財産の種類、などで絞り込み、相談窓口で相談するのが無難だ。
また、遺贈の手続きは生前に行うため、執行されるのは数十年後になる場合も。そのため、小さな団体を遺贈先に指定すると、存続が危ぶまれるケースもある。そんな時は、遺贈先ではなく、遺産の活用イメージを伝えた上で相談窓口に遺贈分を預け、遺贈先の具体的選定を任せることもできるという。
遺贈したいと考えたらひとりで悩まず、まずは相談窓口を頼ることが第一歩といえる。
しかし、こういった相談窓口の存在自体、あまり知られていないのが現状だ。全国レガシーギフト協会の副理事長・鵜尾雅隆さんはこう話す。
「相続財産の規模は年間35兆~60兆円と、国の税収並みの市場があります。この1%でも遺贈に回れば、税金とは違う公共資源として、世の中を変えていく力になりうるのです」
今後は、47都道府県に「いぞう寄付の窓口」のネットワークを広げ、無料の相談窓口を、日本における寄付文化の土台にする予定だという。
遺贈の利点は、自分の財産をどう使うか、生前に自分で決められるということもあるが、“世の中を動かす”大仕事に加われる点にもある。人生最後の社会貢献は、悔いのないよう、プロの力を借りつつ、慎重に検討したい。
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