所有者が誰なのか分からない土地が全国的に増え続けている問題に対応して、政府が「相続登記」の義務化を検討しているそうです。相続登記とは何か。所有者が不明だという土地とどう関係しているのかを見ていきます。
そもそも土地の所有者はなぜ、わからなくなってしまうのでしょうか。
個人が土地を持つようになる経緯にはまず誰かから買うケースがあります。法律によると、売る側と買う側との間で売買契約が交わされると、その時点で土地の所有権は後者に移ったとみなされます。
ただしそれだけだと、所有権の移転があったことが第三者(他人)にはっきりと伝わりません。将来、土地を売ったり貸したりするときに面倒なことになりかねません。
そこで「登記」をするのが不動産取引上のルールになっています。登記とは法務局(登記所)に届け出ることによって所有者の名義などを記録で明らかにするための仕組みです。司法書士ら専門家が代行するのが一般的です。
土地は売買を繰り返したとしても、そのたびに登記されて記録に残るでしょうから、所有者が分からなくなることは通常ありません。
しかし土地は売買だけではなく、親などから相続することによっても所有者が変わります。相続を代々重ねるうちに「所有者が不明となる例が少なくない」と司法書士の船橋幹男さんは言います。
■所有者が死亡→相続人の共同所有に
所有者が亡くなると法律上、その土地は原則として子どもら相続人の共同所有の扱いとなります。遺言か遺産分割協議に基づいて、それぞれの取り分が決まり、新たな所有者となります。
売買とは異なり、専門家がかかわるとは限らず、名義を書き換えずに放っておくケースが多くあります。ただでさえ相続の手続きは面倒で、後回しにされるうちに登記が忘れられることもあります。
相続に伴って不動産の名義を変更する登記を特に相続登記と呼んでいます。何代か続けて相続登記をしないでいると、相続人の数が膨れて行方もわからなくなり、しまいには「所有者がわからない」状態になるのです。
■宅地でも広がる
国土交通省によると、登記簿上で所有者が確認できる土地は調査対象地の8割です。増田寛也元総務相が座長を務める研究会は「九州の面積より広い410万ヘクタールが所有者不明の状態で、2040年には720万ヘクタールと北海道の面積に近づく」としています。山林や農地だけでなく宅地でも広がっています。
所有者不明土地がこれ以上増えないよう政府が検討するのが相続登記の義務化です。「相続してから一定期間内に登記することを義務付け、反した場合は罰金を科す」という案も浮上しています。
ただ現行制度で登記は、売買による土地取得の場合も含めて任意であるため、相続に限らず、すべて義務化すべきだとの意見もあります。そもそも登記をしないと所有権が移転しない制度に改めるべきだとの意見もあります。この考え方は明治の民法制定以来の考え方を大きく変えることになり、法務省などには慎重論もあります。政府は難しい対応を迫られそうです。
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