3年前にがんで亡くなった父の遺言は「土地の相続を頼む」。ただ、福井市の30代男性は、どこにその土地があるのかも知らなかった。
父の死後、市役所に問い合わせると20カ所ほどあった。ほとんどが山林。1筆1500平方メートルや30平方メートルなど、大小さまざま計約7千平方メートル。登記簿を見ると、曽祖父と高祖父、高祖父の父が所有者になっていた。抵当権が設定されている土地もあり驚いた。
親族10人ほどが法定相続人で、会ったことがない人もいた。電話で連絡し、相続を放棄する証明書に判を押してもらった。1年かけて土地は自分のものになった。
しかし、どの土地へも車で数十分かかるため、いまだに行ったことはない。「正確な場所や、土地の境界はさっぱり分からない」。有効な活用法があるわけでもなく、日々の暮らしに支障はないので、そのままにしている。
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不動産の権利部分の登記は義務ではなく、亡くなった人が所有者になっていることは珍しくない。民間有識者でつくる所有者不明土地問題研究会は、所有者が分からない土地が全国で約410万ヘクタールに上るとの推計を公表。九州を上回る面積で、土地の筆数では全体の2割に当たる。2040年には720万ヘクタールに達する可能性があるという。
問題を顕在化させたのは、東日本大震災だ。原発事故に伴う除染廃棄物を保管する福島県の中間貯蔵施設予定地では、地権者約2400人の半数の行方が分からず、現時点で国が確保できた用地は約4割。住宅などの高台移転も円滑に進まず、復興の足かせになっている。福井県土地家屋調査士会の小竹浩二副会長(53)は「公共工事や災害復旧が滞るケースが今後出てくる可能性がある」と危ぐする。
土地の位置や形状を明確にする地図もあやふやだ。福井地方法務局が管理する、地籍調査などを行った精度の高い地図は21%(枚数ベース)にとどまり、残りの多くは明治時代の地租改正のときに作成されたものがベースになっている。ある関係者は「明治の図面は筆で書かれており、太い線や細い線がある。絵図レベル」と苦笑する。
経済活動にも影響が出ている。小竹副会長は「図面と現状があまりにも違い、所有者もはっきりしないため、土地を担保にした融資が受けられなかったり、売買できなかったりするケースがある」と指摘する。
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「所有者不明の恐れ」は土地だけではない。家にもある。福井県越前町は16年10月、行政代執行で、40年ほど無人だった同町梅浦の空き家を取り壊した。木造2階建ての屋根の一部は抜け落ちていた。
取り壊しの準備には数カ月かかった。所有者は元々は町内の女性だったが、既に県外で亡くなっていた。所有者の戸籍の情報などから子ども、孫、おい、めいの計12人の相続人がいることが分かった。
住所は、東京都や愛知県などバラバラ。町はそれぞれの自治体に戸籍を請求した。やりとりは個人情報保護の観点から全て郵便だった。結局、全員が相続放棄を裁判所に届け出ており、町は税金をつぎ込み撤去した。
同町の担当者は「空き家の所有者や相続人が見つからないケースも考えられ、その場合は行政も手出しできない。苦情があっても、バリケードで囲うぐらいしか策はない」。15年後、国内の空き家率は3割を超える見通しだ。
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