企業が現金を貯め込む問題が日本で論争の的となっている。日本銀行(中央銀行)が発表したデータによると、2017年6月末現在、非金融業の企業が保有する現金と預金残高が254兆円に達している。これは日本企業が利益を内部留保して貯め込んだものに他ならない。財務省の調査データでは、日本の全産業の企業が昨年に内部留保した利益は460兆円を突破し、1998年の3.5倍以上に増えている。(文:張玉来・南開大学日本研究センター副センター長)
日本企業はなぜこれほど利益を貯め込みたがるのだろうか。まず、バブル経済の痛ましい教訓ということが挙げられる。1990年代以前、日本企業は政府部門と同様に長期にわたる資金不足の状態にあり、銀行のリテール部門の預金資金を借り入れて各種投資を行うのが一般的だった。バブルが崩壊すると、銀行の貸し渋りや貸し剥がしが普通に行われるようになり、資金調達で困難に陥った企業は財務戦略の転換を迫られた。
日本企業の戦略転換には次の4つの特徴がみられる。第1に、外部からの借り入れを極力減らすと同時に、自己資本の充実を図って経営の安定を確保した。第2に、技術の進歩と経済グローバル化が企業の経営リスクを絶えず増大させたため、日々激しさを増す競争や各種の危機によりよく対処するため、企業は絶えずコストを削減し、利益の内部留保を増やし、この特徴は08年の国際金融危機以降はさらに鮮明になった。第3に、新たな投資分野やブレークスルーをもたらす技術革新の不足も、企業の利益の内部留保を押し上げる要因となった。少子高齢化の流れの影響を受けて、日本国内市場は縮小を続け、自動車などの主要製品の売り上げも減少を続けた。また、ここ数年の新技術革命、たとえば情報技術(IT)、人工知能(AI)などはいずれも米国が中心となっている。第4に、急速な海外転換を進める日本企業は資本を蓄積してグローバル経営体制を構築する必要があり、しばしば海外市場の開拓を未来の成長戦略の核心に据え、直接投資を行うにせよ買収合併(M&A)を進めるにせよ、大量の資本を後ろ盾とする必要があった。
企業が利益の内部留保を拡大し続けることが、日本経済に重大な影響を与えている。まず、所得分配の比率を大幅に押さえ込み、日本の労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)は数年続けて低下し、1977年のピーク時の76%から現在は61%に低下した。これは日本の実質所得水準がなかなか上昇しない深層レベルの原因であり、国内総生産(GDP)の60%以上を占める個人消費を長期間低迷させている。次に、日本企業の海外市場への熱意が、産業空洞化現象をもたらしている。日本企業の海外直接投資額は現在、1兆4千億ドル(1ドルは約111.9円)に迫り、製造業の海外生産比率は25%を超えた。だが、こうしたことが日本経済に与える影響はすべてがマイナスというわけではない。プラス面として、企業が自身のリスク抵抗力を高め、国際競争力を強化し、日本経済の基礎固めをできるようになること、企業の海外投資による利益が日本の経常収支の黒字の重要な柱になりつつあることが挙げられる。15年には海外での特許収入や投資利益を含む日本の所得収支の規模が初めて20兆円を突破し、貿易赤字の削減に有効に働いた。
企業が預金を増やすのは日本だけの現象ではない。近年、欧米の企業も現金預金の規模が軒並み拡大しており、そのうち、ドイツ企業の預金は同国のGDPの8%を超えるほどだ。この問題をどうやって解決するかは世界的な難問になりつつある。日本は鳩山由紀夫内閣の時代に企業の内部留保への課税が検討されたが、二重課税になるとして、いまだに実現していない。どうやら、より深層レベルの構造改革こそが、企業の預金規模を縮小する最良の手段だと考えられる。
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