ワインの試飲を楽しみながらワイナリーを巡るワインツーリズムが各地で開催されている。ワインツーリズムを考案し、最初に実施した山梨を取材し、その魅力を探った(雑誌『一個人』2017年11月号より構成)。
◆山梨に人を呼び込むためのイベントとして企画
11月11日と12日の両日、第10回ワインツーリズムやまなしが開催される。甲州市(勝沼、塩山)、甲府市、笛吹市、山梨市、甲斐市にある約60のワイナリーを2000人以上の参加者が巡り、ブドウ畑やワインセラーを見学したり、ワインを試飲するイベントだ。
回を重ねる毎にイベント開催時以外にも山梨のワイナリーを訪ね、飲食店で山梨ワインを飲み、山梨ワインを買って帰る人が増えてきた。ところが、それ以前は山梨ワインを飲ませてくれる店も買える店もほとんどなかったと一般社団法人「ワインツーリズム」のプロデューサー、大木貴之さんは語る。
「お目当てのワイナリーに出かける人はいましたが、それ以外の場所に行く人は多くありませんでした。ワイナリーが点在する勝沼でさえ町中を歩く人はあまり見かけませんでした」。
甲府市内で山梨ワインを提供するレストランを営んでいた大木さんは、そんな状況に危機感を募らせていた。どうすれば山梨ワインを飲みに首都圏から人が来てくれるのか。2004年、大木さんは仲間とブログを始め、山梨ワインの魅力をつづることにした。2005年頃から自分の店でワインフェスを開催。ワイナリーを3社以上呼び、質疑応答しながらワインが飲めるイベントを10回企画した。毎回100人が集まり、定員25名の店は人で溢れかえった。
2007年春、自分達で小冊子を作成。都内の書店で販売してもらうだけでなく、その小冊子を都内の雑誌編集部に持込み、山梨ワインの取材を売り込んだ。
◆ワイナリーで醸造家と会い、話が聞けるのが魅力
2008年春、同年11月にワインイベントの開催が決定。地域住民や大木さん達仲間から構成される実行委員会がイベントを運営することになった。これまでワインのイベントは一カ所で行っていたが、各ワイナリーで開いたほうが面白いのではないか。甲府市在住の大木さん達は、知人で勝沼町在住の鶴田真也さんに相談した。
勝沼には約30のワイナリーがあり、それらを歩いて回れるコースを作りたい。そのためにも効率のよい場所に臨時バス停を作りバスを運行させたい。大勢の参加者の食事も用意したい。勝沼には飲食店が少なく、出店を準備しなければならない。それには出店者と保健所の許可が必要だった。
「インフラ整備からワイナリー、飲食店、地域の人々、警察、保健所との連携など行政職のような仕事を新メンバーになった自分も含め実行委員会が担当しました。今思えば無茶な頼み事を大木さん達にされました」と鶴田さんは語る。
第1回ワインツーリズムやまなしには1284名が参加。初回は勝沼だけでの開催だったが、その後、参加するワイナリーも地域も参加者も徐々に増えていった。
「ワイナリーに行けば醸造家が説明してくれます。彼らの人間的な魅力に接することでよりワインをおいしく飲めるのもこのイベントの魅力だと思います」(大木さん)。
手作りワインを手作りのイベントで飲める。それがワインツーリズムやまなしの最大の特徴となっている。近年、ワインツーリズムやまなしと同じような動きが北海道余市や山形県、長野県でも起こりはじめた。そのユニークな活動
が、ワイン好きから脚光を浴びている。
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